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東京家庭裁判所 昭和57年(家)5527号 審判 1982年8月25日

本籍及び住所 東京都世田谷区

申立人 谷田啓子 外一名

国籍 中国 住所 東京都世田谷区

未成年者 谷田文伯こと康文伯

主文

本件申立てを却下する。

理由

申立人らは、未成年者と国との間で、別紙物件目録記載の不動産(以下本件不動産という。)の未成年者の持分に昭和五六年八月二七日相続による納税者谷田啓子の相続税及び利子税の額に対する延納担保を目的として抵当権設定契約を締結するため、未成年者の特別代理人の選任の審判を求めた。

よつて審理するに、申立人らの審問の結果その他本件記録添付の証拠資料及び東京家庭裁判所昭和五七年(家)第八〇号事件記録によれば、以下の事実を認めることができる。

一  申立人康世仁及び未成年者はいずれも中国籍を有する者であるが、申立人両名及び未成年者はすべて日本に住所を有し、特別代理人のなす代理行為も日本で行われることが予定され、抵当権設定の対象たる不動産は日本に所在するものである。

二  未成年者は申立人両名の嫡出子であるが、昭和五五年三月一一日に申立人谷田啓子の養母である谷田ヨシノと養子縁組をなした。

三  谷田ヨシノは昭和五六年八月二七日、死亡した。

四  未成年者は申立人谷田啓子とともに谷田ヨシノの相続人であり、谷田啓子らと谷田ヨシノの遺産たる本件不動産を共有取得した。

五  申立人谷田啓子及び未成年者は上記の相続により、相続税の支払義務が生じ、相続税の延納を申請している。そして、相続税の支払いの担保として本件不動産に抵当権を設定するため、本件申立てをなした。

六  申立人康世仁は台湾に本籍を有し、日本に渡航する前は長年、台湾に居住していた。同人の両親やその他の親族も台湾に現在、居住している。

ところで、本件は未成年者の実母である申立人谷田啓子と未成年者間の利益相反行為について特別代理人の選任を求めるものであるが、前記1認定の事実によれば、本件は日本に裁判管轄権があると解され、かつ、親子間の法律関係として法例二〇条により準拠法を決すべきことになる。そして、前記2、3認定の事実関係の下では、右準拠法は父である申立人康世仁の本国法となるところ、同人は中国籍であつて、しかも、前記6認定の事実によれば、同人の本国法は中華民国法と解するのが相当である。

しかるところ、中華民国民法によれば、日本民法と同様、未成年者が養子縁組をなしたときは、同人の親権は養親のみが保有し、かつ、養親が死亡したとしても、当然に実父母の親権が回復するものではないと解されている(戴炎輝著「中國親属法」二六五頁、二九一頁、二九二頁、陳棋炎著「民法親属」二三五頁、二四〇頁参照)。そして、養親が死亡し、親権を行使する者がいなくなつたときは、監護人(中華民国民法一〇九一条)が子の法定代理人になるとされている(戴炎輝前掲二九二頁)。そして、誰が右の監護人となるかは、中華民国民法一〇九三条、一〇九四条により規定されているところであるが、申立人谷田啓子が右の監護人であることを認める証拠はない。

そうすると、本件では、そもそも申立人谷田啓子は未成年者の法定代理人ではないことになるから、同人と未成年者の間に利益相反の問題は生ぜず、特別代理人を選任する必要は何らないといわなければならない(なお、仮に申立人谷田啓子が親権者又は監護人として法定代理権を有するとしても、中華民国法上、利益相反行為に該当する場合に特別代理人選任を認める法規は存在せず、そのような場合にも法定代理人は代理権を有すると解されているから、いずれにしても本件は却下を免れない((東京家裁昭和四一年四月一九日審判、同年七月七日審判及び長崎家裁昭和四六年五月一〇日審判参照))。)

よつて、本件申立ては却下することとして、主文のとおり審判する。

(家事審判官 大坪丘)

別紙目録<省略>

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